こりくつ手帖

なにかというとすぐに例え話をはじめる20th century girl

ららぽーと富士見に行ったついでにこれからのショッピングモールの話をしよう

ららぽーと富士見に行ってきた

夫が有給を取ったので平日昼間のららぽーとに乳児の息子と3人で行ってみた。
ららぽーと富士見とは、埼玉県富士見市(川越の隣)にこの4月オープンしたショッピングモールである。
埼玉初出店のテナントが多く、子連れフレンドリーな構成になっているとの噂を聞いていたので、実はオープン前からわりと期待していた。

 
都内から埼玉県に引越し、大型ショッピングモールに行くようになった。
世間でイオニストがどうのこうのと言われているが、郊外で暮らしてみたら大型モールはやはりそれなりに便利である。
テナントのラインナップから土地柄やターゲットが浮かび上がってくるのも楽しい。
デパートや駅ビルとは空間の作りからしてまるで違うのも新鮮だ。
 
今回訪れたららぽーと富士見はテナントのセレクトや体験型施設の提案などに工夫があり充実していた。
だからこそ「もっとこうなればいいのに」という想像力も働き、今後のショッピングモールの在り方について考えさせられた。
いくつかのトピックに分けて感想などまとめておく。
 

立地条件・価格帯・新規性、埼玉の要求は高い…

まずは回ってみた所感を列挙。
 
  • 大きな特徴は外資ファストファッションの充実。埼玉南部の大宮、浦和、川越といった商業地にGAP、ZARAくらいしか置かれていなかったのが常々不思議だったが、こことさいたま新都心コクーン2のオープンでオールメンバーがほぼ揃う形となった。OLD NAVY,Bershka,Stradivariusなど低価格かつ都内にも展開が少なく目新しいセカンドラインが多いところが上手い。
  • 国内ブランドも買いやすい価格且つ知名度のあるブランド名が入ったセカンドライン(SC用ライン?)が多い。埼玉南部は東京へのアクセスが良いため、気合いの入った高い買い物をしたい時は東京に流れる。東京に行く気力がない場合も大宮あたりに流れる。よって、衝動買いやついで買いを狙える価格、遠方まで服を買いに行くほどのモチベーションはない状態の人が気軽に手に取れる価格が求められる。同時に、都内でもメジャーなブランド名が醸すトレンド感も必要。
  • その一方で価格が少し高めのブランドもおさえている。ファッションではDIESEL、インテリアではACTUSなど。ちょっと良いものが見たい人も当然いるので嬉しいと思う。
  • 個人的にはZARA HOMEが入ってるのが新鮮でよかった。
  • 服飾と並べて生活雑貨をトータルで提案するいわゆるライフスタイルショップ系の店舗が多い。本施設に限ったことではなくこうした業態はトレンドだが、シンプル・リラックス・スローライフ的な雰囲気に概ね集約されているように思える。もう少し変わったテイストに振り切ったものも見てみたい。アパレル主導型なら、例えばゴスロリ系ライフスタイルショップとかも需要あるのでは。来年開業予定のイオンモール高崎駅前あたりでやれば北関東の聖地になれそうだ。
  • レゴショップに心躍る。
  • フードコート、飲食店のセレクトがいい。鉄道カフェ、ブックカフェも面白そうだ。BBQ広場があるのも空間を広く使えるモールならでは。

本施設最寄りの駅は東武東上線ふじみ野だが、ここは元々池袋まで一本で行ける上に、副都心線への乗り入れによって日本有数のショッピングタウンである新宿三丁目とも結ばれてしまった。
この位置にモールを作るとなると、リトルトーキョー過ぎても存在意義が薄れるし、かといってトレンド感がないと見放されるしと難しそうなのだが、そこはららぽーと、押さえている。
『都会にあるものもないものも、ここにはありました。』というキャッチコピーにもそのあたり配慮した感じが出ている。
面白く過ごせたし、そもそも広くて一度では回りきれないので、まずリピートは確定だ。
 
以降は、本施設への注文というより、ショッピングモール全般に期待することも含めて書いてみたい。
 

高齢化するショッピングモール

訪れたのが平日だったこともあり、客層は子連れママと高齢者が目立った。
三世代連れ立っているグループもいたが、高齢者のみの夫婦または女性グループも多かった。
屋根があって道が広く、各所に椅子があるショッピングモールは高齢者や子連れ、妊婦など交通弱者にとっていい散歩コースになる。
高齢者が利用しやすそうな店は百貨店サテライトショップ周辺と、無印良品などの生活雑貨系だろうか。
あとはフードコートにも集結していた。
 
少子高齢化、共働き世帯の増加で今後高齢客の占める割合はもっと増えるだろうし、その中には孫がいない人も多くなるだろうから、もっと高齢者自身に向けた商品があっていい気もする。
現在大きなスペースを占めている若年層向けのファッションブランドは、そのうち中高年層向けブランドを発表して取って代わるかも知れない。
というか、早く発表したらどうだろうか。
もし私が60代で、ユナイテッドアローズシルバーレーベルとかがあればおそらく通うだろう。
年を取ったからといって急にシニア感にあふれた「ブティック」とか「洋品店」に行く気にはならないと思う。
かといって、20~40代も使うショップの中から自分でも着られるものを探す、というのは「ターゲットでないけど利用させてもらっている」という感覚があって肩身が狭い気もする。
それにできれば体型や身体能力の変化に合わせたカッティングの服がいい。
テイストと価格帯は変えずに作りを熟年仕様にしたような、それまで使っていたブランドのセカンドラインというか、グランドラインみたいなものが欲しい。買い物王に俺はなる。

10代のカワイイ文化が世界に羽ばたいたように、高齢化先進国の日本こそ世界に発信するくらいの勢いでじじばばが粋に装う文化を育ててほしい。
その際のポイントは、郊外からでも電車を乗り継いで聖地原宿・渋谷を目指し、時に食事を抜いてでも服を買う10代とじじばばは違うということだ。
限定的な聖地から発信するのではなく、アクセスの容易な各地のショッピングモールで手の届くブランドがファッションを牽引した方が効果的なはずだ。
若年層向けファッションの世界において郊外のモールはフォロワーだが、熟年層に向けてであればトレンドセッターになれる可能性があるのではないか。
 
同様にバリエーションが欲しいなと思うのがカルチャーセンターだ。
カルチャーセンターという名称は落ち着きすぎていて高揚感に欠ける上、定期的に欠かさず通わなければいけない感じがするので入りづらい。
特に引退直後の男性なんかは、地域のもの、主婦のものといった雰囲気の強いこの名称では入りづらいのでは。
もっとカフェみたいなノリの店舗にしてもらえたらふらっと訪れたくなる。
貴和製作所ラフォーレ原宿でやっているカフェ(パーツ販売と工具の貸し出しがあるのでその場でアクセサリーを作れる)のようなイメージの手芸カフェとか、ゲームセンター感覚で行きずりの人同士が対戦できる囲碁将棋カフェとか。
もちろん定期的に通いたい人もいると思うのでそれはそれでいいのだが、子供向けのアミューズメント施設のように、ふらっと来た老人が1回きりで楽しめる体験型施設があってもいいのではないだろうか。
 

男性客の居場所問題と物販施設からの脱却

高齢者の他にも居場所が足りなさそうな存在が男性客だ。
服や雑貨ばかりを何時間も眺められる男性はそこまで多くないだろう。
男性が家族の用事を待つなど時間を潰すために使うのは大抵本屋かフードコートあたりだが、どこのモールでもそんなものなので、何か目新しいものがないと毎週末を本屋かフードコートで過ごす羽目になりかねない。
モールに行きたがる家族を伴わない場合、男性の来店動機はますます希薄になる。
今後働き方の多様化が健全に進めば平日の男性の自由時間は増えるはずなので、男性客のニーズは軽視できない。

電器屋なんかも男性がふらつきやすいが、ショッピングモールがそこまで力を入れるべきジャンルではない。
普通の店をただ広くして商品数を増やすような力の入れ方になるならなおさらだ。
郊外に行くほど住民のAmazon楽天への依存度は高まる。これに太刀打ちできない。

都会の商業施設にも言えることだが、ネットショッピングの浸透により実店舗がショールーム的な使い方をされがちな現状では、むしろショールームのような姿で利益を上げるモデルを探る必要がある。
本施設にもあるブックカフェはその路線と言えるだろう。
電器屋でやるなら、調理家電を試せるレンタルキッチン、PCやプリンターを使えるコ・ワーキングスペースといったあたりか。

今ショッピングモールにあったら素敵なのは、3Dプリンターやレーザーカッターを使ったデジタルな工作を楽しめるFABカフェだ。
先述した気軽に入れるカルチャーセンターとして利用できるのはもちろんだが、何より個人がものづくりをして発信する時代の空気を伝搬させてほしい。

ふらっと参加できるという方向なら、スポーツバーもいいかも知れない。
夫に「女性にとってのファッションと同じ感覚で男性の多数派が興味あって気軽に見られるジャンルって何?」と訊いたら「やっぱりスポーツじゃない?」とのことである。
映画館でのライブビューイングなどはその需要を想定したものだろう。

郊外に不足しているのは物ではなく、文化に触れる機会だ。
特に参加型且つ出入り自由な文化コミュニティは一定の人口密度があり匿名性が高い都市部の方が生まれやすい。
人口密度の高い場所を人工的に作り出しているショッピングモールには、そんな機会の提供こそが期待される。
その役割をうまく担えれば、男性客に限らず、より幅広い層の集客につながるのではないか。

求められるのは「街を歩く感覚」

最後にショッピングモール全体の構成について触れたい。

百貨店や駅ビルが多層化し人を目的に応じて上下させる構成なのに対し、モールは横へ横へと拡大された平面を回遊する形態を取り、街を散策しているかのような感覚を演出する仕組みになっている。
外の光を取り入れたり、吹き抜けで開放感を演出したりといった作りもそのためだ。
家族連れや買い物袋を持つ客が行き交いやすいように通路幅はどこも一定でゆとりがある。

このように快適な街歩きを実現するための配慮に富む一方、ショッピングモールが実際の街に敵わない点がある。
それは猥雑性と排他性だ。
これらはショッピングモールの目指す方向とは対極にあるが、大いに街を面白くする要因になる。
住みたい街ランキングの常連を例にとってみても、吉祥寺の駅前の賑わいやハモニカ横丁はごちゃごちゃした魅力があるし、恵比寿はおしゃれ偏差値60以下立ち入り禁止とでも言わんばかりの空気が街のブランド価値を高めている。

こうした類の魅力を持つのが難しい以上、ショッピングモールが目指すべきは「誰もが何かに出会える面白さ」のある街だ。
ハード面はある程度均質になってしまうので、やはりソフト面に頼ることになる。 
今回訪れたららぽーとに参加型、イベント型のテナントが多く見られたのがそんな方向性を表しているように思えた。

というように、郊外のショッピングモールはまだ進化の余地を残している。
都会の商業施設、ネット通販、駅前のパチンコ店など手強いライバルに負けずこれからも健闘してほしい。
Amazonの段ボールを開けながら思った。